MENU
Language
CLOSE

COLUMN

一覧に戻る

USERS

カリモク60のあるところ

ナガオカケンメイ
D&DEPARTMENT PROJECT創設者

ロングライフデザインを体現し
居心地の良さを提供するアイコン

入り口手前はギャラリー。その奥にカフェ、ショップ、デザイン事務所が連なる。

江戸時代から続く問屋街としても有名な東京・馬喰町。東京でも下町と呼ばれる人情あふれるエリアに佇むビルの1階に、日本各地のロングライフデザインを発掘し、その土地らしさを伝えるD&DEPARTMENT PROJECTのデザインセクションでD&DESIGNの活動拠点「club d by D&DESIGN」がある。D&DEPARTMENT PROJECTの創設者であり、デザイン活動家のナガオカケンメイさんは、この場所を「僕らの原点を体現している場所」だと話す。

D&DEPARTMENT PROJECTが誕生したのは、2000年。物に溢れた世の中で新たなデザインを生み出すのではなく、すでに存在している素晴らしいデザインを見出し、その価値を伝えていく活動として、ナガオカさん自身がリサイクルショップから見つけ出した日用品や、業務用のデスクやチェアなどに手入れを施し、自宅マンションの一角で販売を始めていた際、訪れる客にコーヒーを振る舞うなどして、おもてなしをしていた。

D&DEPARTMENT PROJECT創設者で、デザイン活動家のナガオカケンメイさん。

「リサイクルショップで仕入れたものの中に、日本の洋食器メーカーのノリタケ、ガラス食器のADERIA、そして国産家具メーカーであるカリモクWS1150(後のKチェア)がありました。この3つに共通していたのが、流行に左右されない普遍的なデザイン性。そしていずれも1960年代に生産されはじめたもの。この時代に生まれた企業の意志を感じるプロダクトをまとめ、1960年代を起点としたブランドが作れるのではと考えました」。

その後2002年には、1960年代に生産された普遍性のあるプロダクトを、復刻・リブランディングする共同プロジェクト『60VISION(ロクマルビジョン)』がスタート。カリモク家具は『60VISION』の第一号企業として参画し「カリモク60」が立ち上がることに。同じ頃、D&DEPARTMENT PROJECTは、リサイクルショップから見出した普遍的なデザインプロダクトを販売するショップと、カフェを備えた「D&DEPARTMENT TOKYO」を東京・奥沢にオープン。(現在は2階のみで営業)。1Fのカフェ「D&DEPARTMENT DINING TOKYO」には、カリモクのロビーチェアが配置されていた。

「D&DEPARTMENT DINING TOKYO」で採用されたロビーチェア。

「当初はKチェアを並べていたのですが、2フロア合わせて500坪もある広いスペースを考えると、軽やかな雰囲気のあるKチェアよりも、重厚感のあるロビーチェアの方が居心地が良いのでは」と感じ、全ての椅子を総入れ替えすることに。当時、カリモクのロビーチェアは、中小企業の応接間や自衛隊の事務所の応接間などに採用されることが多く、どちらかというと業務的な顔を持った椅子。白い壁に黒いロビーチェアのコントラストの美しさに加え、横からみた美しさなど、カフェ空間にも映えるその佇まいが多くの雑誌に掲載されたことで、若い人たちへの販売数が一気に伸びたという。

改良を重ねて座り心地の良さを追求したロビーチェア1シーター。

「とはいえ、販売数を着実に伸ばしていった裏側には、カリモク家具の企業としての実直さがあると考えています。もとは応接間の椅子として作られた椅子だったため、カフェのように不特定多数の人が座り、使用頻度が高まると座面がくたびれてしまう。僕らがカフェで使用し続けることで気づいた改良点を伝えると、これまでバネで弾力を保っていた座面に、穴の位置や硬さを計算したモールドウレタンをプラスすることで、しっかりした座面へと改良したという、カリモク家具の企業努力があります。ブランディングというと、どこか有名なデザイナーがマークを付けたことで売上が伸びる……といったことを思い浮かべがちですが、決してそうではありません。ユーザーの声を真摯に受け止め、必要な改善を施していくという、ものづくりに対する真面目な姿勢が、長く愛され続けていく基盤」だという。

壁一面に配された本を、ゆっくり読みたくなる空間。

メーカーのものづくりの意志を消費者に伝えると同時に、ユーザーの生きた声をメーカーに届け、ブランド力を構築していくという、デザイン事務所と企業のパートナー的な関わり方。「club d by D&DESIGN」は、こうしたD&DEPARTMENT PROJECTの原点を体現するギャラリー、カフェ、ショップを備えたデザイン事務所だ。ギャラリーは、ロングライフデザインをテーマに、D&DEPARTMENT PROJECTが提案する「新たに作らないデザイン」を発信する場。奥へ続く細長いカフェスペースでは、壁一面の本棚が圧倒的な存在感を放つなか、カリモク60ロビーチェア1シーターが縦に連なる。

デザインやアートにとどまらず、さまざまなジャンルの本が並ぶ。

座面の奥行きや幅にゆとりを持たせた設計に加え、背もたれにクッションを合わせることで、さらに座り心地が高まるロビーチェア。「何時間でも本を読みたいと感じられる椅子を置くことで『ここでゆっくりとお過ごしください』というメッセージとなる」と話すナガオカさん。本棚には、アートやデザイン書はもちろん、建築や食文化や歴史を扱った本がずらり。分厚い本をじっくりと楽しむ時間を、ロビーチェアが居心地よく支えてくれる。

ショップスペース。ロングライフデザインという切り口で集められたアイテムが揃う。

同じビルには、皆川 明氏の率いる「minä perhonen」の「puukuu 食堂」が同居し、周辺には、デザイン事務所やフォトスタジオのほか、クラフトビールの販売店やコーヒーロースターなどが点在することもあって、クリエイターや文化人などの来訪も多い。週2日(木・金曜)のみオープンし、デザイン部のスタッフが接客も担い、自分たちのデザイン活動を直に伝える場所ともなっている。

DATA
club d by D&DESIGN
東京都千代田区東神田1丁目2−11
毎週木・金曜 12:00〜18:00 営業
ナガオカケンメイKenmei Nagaoka

デザイン活動家。
D&DEPARTMENT PROJECT創設者。

Text:
Noriko Matsuzaki
Photo:
Yuta Hinohara