小野木 大 Room Roots 店主
小野木 大 Room Roots 店主
石川県小松市。まっすぐに伸びた国道306号線沿いに位置する「Room Roots」には、日々の暮らしに楽しみを与えてくれるものが並ぶ。スリッパやラグなど暮らしに身近なものから、湯呑みやランチマットなど食卓を彩るもの、そして椅子やテーブルといった大型家具など住まいにまつわるものまで、幅広い品揃えだ。
2階は「カリモク60」をメインに、小さな家族の暮らしをイメージした部屋のような空間が広がる。この場所で、「Room Roots」の店主・小野木大(おのき ふとし)さんは、一人ひとりの暮らしに耳を傾けながら「カリモク60」の魅力を伝え、心地よい暮らしの提案をしている。
「大学進学でこちら(石川県)に来て、そのまま居ついてしまって」。そう朗らかに笑う小野木さん。出身は茨城県で、大学ではスポーツ科学を専攻していたという、少し意外な経歴の持ち主。「父が大工だったこともあり、建築科に進むかスポーツに進むか迷った」という。その時はスポーツの道を選んだものの、家具や空間への興味は、心のどこかにずっとあったのかもしれない。その想いがはっきりとかたちになったのは、大学時代の一人暮らしや東南アジアでのボランティア活動がきっかけ。
「当時は、とにかくおしゃれな部屋に憧れて。雑誌を開くと、素敵な部屋には決まってカリモク60のKチェアがあったんです」。学生当時の小野木さんにとって、それは「少し高価で、憧れの家具」だったという。当初は学生時代にボランティアで度々訪れた東南アジアから雑貨を輸入し雑貨店を開く事も考えたが、大学4年生になる頃には「家具屋になりたい」という目標に変わり、卒業後は2つの家具店で経験を積んで独立。金沢ではなく小松に店を開いたのは、「この地域で、デザインやものの背景を大切にする家具店としての役割があるのではないか」と感じたから。
「Room Roots」に訪れる多くの方は、「カリモク60」について、すでにWEBサイトなどからの情報は知っているものの、小野木さんは、その「背景にある物語」を丁寧に伝えることを大切にしている。
「『60(ロクマル)』というのは1960年代のことで…と、その歴史からお話しします。長く続いているという事実こそが、品質の良さや、ずっと変わらずに作り続けるという企業姿勢の裏付けに繋がっていくと思うんです」。
お客様からよく尋ねられるのが、張地の耐久性について。特に人気のモケットグリーンとスタンダードブラックの違いだ。そんな時、小野木さんは実際に15年ほど使われたKチェアの座面を見せて説明するという。
「スタンダードブラックは、経年していくとこういう風合いになると、実際に見て分かるように工夫しています。これを見てもわかるように、ボロボロと剥がれてくる合皮とは違って、他の部分はとても綺麗なんです。縫い目から少しずつ裂けてきますが、逆に言えば、そこまでは美しい状態を保てます」。
「モケットグリーンの張り地は、公共の電車のシートにも使われるほど丈夫です。少しずつ起毛が寝ることで、それが『味』になっていくこともお客様にお伝えしています」とも。言葉だけではなく、実際の「時間」が刻まれた見本を見せること。いつでも「パーツ交換ができる」ということは、使い手にとっての安心感に繋がる。それは、普遍的なデザインを守り続ける「カリモク60」の使い手を思う表れだ。小野木さんは、メーカーと使う人の結び手として、長い歴史に裏付けされた品質や誠実さを、分かりやすく丁寧に伝えている。
「ご購入いただいた後も、メンテナンスのご相談に対応させていただいています。それはこれからも大切にしていきたいですね」と、小野木さん。
「Room Roots」では、家具を購入された方にリンサークリーナーを無償で貸し出すサービスに加え、シミなどにも対応できる専門のクリーニング店を紹介するなどの配慮も。加えて、修理の手配や、買い足しの相談など、暮らしの変化にも寄り添い続ける。店から約2時間も離れた地域から「ここにあるって聞いて連れてきてもらったよ」とKチェアの修理の相談で訪れてくれたご年配もいるという。
「小柄なおばあちゃんが座っても安定感やサイズがちょうど良いと仰っていましたし、長身の僕が座ってもこのサイズで良いって思えますから」と、小野木さん。また、小野木さん自身がお客様のご自宅まで購入いただいた家具をお届けするため、カリモク60の普遍的なデザインが、さまざまな部屋のスタイルに調和するということを、お客様との関わりの中から感じ取っている。
そうして得た知見を活かし「日常のリアルな使用感を含め、どんなシーンで便利なのかをサイズ感も合わせてご説明できるというのはありがたい」とも。さらに「長くご愛用いただくことが目標なので、今ある空間に調和させ、ずっとここにあって違和感のないもの」という、ものの選び方を大切にしている。
2階のスペースは、1人から3人くらいの小さな家族の暮らしをイメージできる空間。カリモク60の家具をメインに揃えつつも、その他のアイテムと合わせることで、どんな世界観が作れるを分かりやすく伝える場所だ。「お客様がこのスペースを見て喜んでいる声が聞こえてくると、やっぱり嬉しいですね」と小野木さん。ここは、ものを売るのではなく、その先にある、その人らしい豊かな空間を「一緒につくる」伴走者のような存在にも思えた。
「Room Roots」という名前。そこには、以前の店名から変更する際に「自分たちが本当に大切にしたいことは何だろう」と深く考えた末に辿り着いた、小野木さんの想いが込められている。
「お客様が歩んでこられた人生、つまり『ルーツ』の中にこそ、本当に気に入るものへのヒントが隠されていると思うんです。セオリーに囚われず、ご自身の趣味や経験に根差したインテリアこそが、一番自然で心地良い空間になる。そう信じています」。
同時に、「家具そのものにもルーツ(歴史や背景)があります。特にカリモク60は、語れば語るだけ、深い物語があります。モノのルーツと、人のルーツ。その二つが繋がることで、一つの素敵なお部屋(Room)が生まれる。私たちは、その出会いをそっとお手伝いする店でありたい」と小野木さんは、胸の奥の温かい気持ちを伝えてくれた。
自分の内側にある「好き」という感覚と、作り手の想いが込められた家具。その二つの「ルーツ」が出会う場所。小野木さんの穏やかな眼差しは、今日も訪れる人の暮らしに、静かに寄り添っている。
