堤 健次 Loops 店主
堤 健次 Loops 店主
鵜飼(うかい)で知られる岐阜県長良。岐阜市のシンボルである金華山を望み、鵜飼を観覧する場所へ続く道は、昔ながらの古い街並みを残す場所だ。そこからほど近い、大通り沿いに面した洋風な佇まいの商業施設の一角に、家具や雑貨を扱うインテリアショップ「Loops」がある 。
作り手、売り手、使い手の想いを途切れることなく循環させ輪を描く場所にしたいと、堤 健次さんがオープンしたこの店は、2026年2月に7年目を迎えた。「僕が話せることあるかな」と恥ずかしげに笑顔を見せながらも、開店当初からのエピソードやお客様との関係性づくりからは、信頼を誠実に育んできた軌跡が伺えた。
「レゴ遊びが好きで、説明書通りに作るだけでは飽き足らず、一度作ったものを壊しては自分だけのオリジナルを作ることに夢中になっていた」と幼少期を振り返る堤さん。
大学では文学部を専攻したが、以前から憧れていた舞台空間の仕事への想いは消えなかった。
在学中にダブルスクールでインテリアを学び、卒業後はデザイン事務所へ。内装から家具までトータルで提案するコーディネーターとして、現場での経験を積み重ねていった。
そこで大切にしてきたのが、お客様にとって家具を買うことがゴールではないということ。「手に入れたというステータスだけで満足するのではなく“使ったときの満足感”に意識を向けてもらうことが重要だと考えています」と話す。お客様に商品を長く使い続けてもらい、その価値を実感してもらうことを重要視する姿勢は、Loopsの開店に至るまでの並々ならぬ苦労の中にも表れていた。
2010年、堤さんはインテリアデザイン事務所から大和書店株式会社が運営する「THE LIBRETTO」へ転職。同社は元々書店を母体としながら、文房具、雑貨、そしてインテリアへと事業を拡大し、最終的に20数店舗を展開するチェーンに成長していた。堤さんは、そのインテリア部門を統括する立ち位置で入社し、約10年間勤務。2014年にオープンした店舗では、店長として店舗設計の段階から参加し、暮らしに寄り添う家具の提案を行なってきた。しかし、順調に見えた2019年のある日、勤務していた会社が「明日倒産する」という事実を知ることに。
「自分が提案した家具を心待ちにしているお客様を裏切れない」。その一心で、個人の借金を背負ってでも店舗を引き継ぐ覚悟を決め、2020年2月、新たにLoopsとして再オープンさせた。
倒産からわずか2ヶ月でのオープン期間には、破産管財人との不動産物件の法的手続き、そして多額の資金調達を短期間で完了させるという、計り知れない苦労があったそう。
「同じ場所で、同じ人が接客するとはいえ、会社としては別物。そのため全ての取引先との契約を最初からやり直す必要がありました。そんな中、カリモクさんとの継続取引においては、本社まで直接出向きプレゼンテーションを行うなど、ゼロからの信頼構築に奔走しました」と、当時を振り返る。こうした苦難を乗り越え、カリモク家具の納品を心待ちにしていたお客様へも、堤さんが責任を負担する形で無事届けられたという。
堤さんがここまでカリモク家具に絶大な信頼を寄せる理由は、暮らしの提案者としてのプロ意識、そして一人の使い手として、その「品質の安定性」に魅力を感じているから。
「いつ、どこで買っても、同じクオリティのものが届く。言葉にするのは簡単ですが、天然の木材を扱うメーカーにとって、これほど難しいことはありません」と堤さん 。
「特にアームの曲線美、色仕上げの均一さ、そしてクッションのボタン締めの力加減に至るまで、徹底的に管理された品質は、販売する側にとっても大きな安心感」と言葉を添えた。
そして堤さんが、数あるカリモク製品の中で特にお気に入りとして挙げるのが「Tチェア」。そのデザインには、日本の住空間を熟知したカリモクならではの知恵が詰まっている。
「背もたれの板が人間の背中よりも、より丸みをもって設計されているので、座ったときに背もたれが身体をしっかりと支え、安定感を生み出してくれます。実際に家で椅子に座る時って、真正面に座るだけでなくテレビを見ながら斜めに座ることもよくありますよね。そんな時でも重心が自然と椅子の中央に収まるよう設計されているので、長時間座っても疲れにくいんです」。
また、Loopsでは「商品を売ること」をゴールと捉えず「手に入れたその日から始まる生活」に焦点を当てている。
「お客様には、実際に商品に座り、限られた空間の中をイメージしながら、そこで座り、実際に立ち上がり歩いてみることをおすすめしています 。そうすることで、図面上の数字だけではわからない、椅子を引いた時の有効幅や、キッチンへの動線を、お客様の身体感覚で具体的にイメージしていただくことができます」。
納品時には接客した堤さん自身がお客様の自宅へ配送し、設置までを担当。 目の前で組み立てながら構造を説明し、メンテナンスの方法を直接伝えることで、日々使う暮らしの道具としての安心感を伝えている。汚れや摩耗が気になる座面部分は、プラスドライバー一本で誰でも簡単に交換が可能であることを目の前で見せ、日々の手入れ方法までをも具体的に伝えている。
「例えば、ビニールレザーの張地であれば、“中性洗剤を3〜5%に薄めて拭く”といった具体的な手順までお伝えします 。実際に店舗で提案してくれた人が、直接家まで持ってきてくれる。それがお客様にとって最大の安心感に繋がるはずですから」。
さらにLoopsでは、購入者のお客様とLINEを通して繋がることで 「傷がついてしまった」「お手入れはどうすればいい?」といった些細な悩みにも、気軽に写真付きで相談できる環境づくりを心がけている。こうした密なコミュニケーションが、購入した家具が大切なものとして長く使い続けられる要素になると気づいているからだ。
そして、この場所から旅立ったカリモク家具は、使う人の個性や、置かれる場所、目的に応じて、一つ一つ違った「暮らしの景色」を生み出していく。
たとえば、狩猟免許を持つ女性ハンターの住まい。壁に飾られた鹿のハンティング・トロフィーが見下ろす独創的な空間に、モケットグリーンのKチェアがしなやかに調和している。
美濃市にある「うだつの上がる町並み」という通り沿いに佇む、大正レトロな雰囲気を残した古い庄屋(現在はフォトスタジオとして運営)には、モケットグリーンのロビーチェアが仲間入りした。時代の記憶を刻む建物の中で、新しくも懐かしくもある椅子が、新たな物語を紡いでいる。
さらに「お父さんだけは肘付きの椅子にしたい」という家族の思いを表した食卓の景色。毎年少しずつ椅子が買い足される食卓は、色や形が違えども、カリモクという共通言語で統一され、家族の成長とともに暮らしのシーンを刻んでいく。
「お客様とメーカーをつなぐ販売店。その間にある繋がりが、輪(Loops)のように続いていくこと」 。店名に込められた堤さんの願いは、時代やトレンドが移り変わる中においても、普遍的で、誠実そのものだ。
