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COLUMN

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TREE

カリモク60とクリエイター

カリモク60に座ってお話を聞きました。

名和晃平

以前から黒い「スリーピングソファ」を使っています。自宅に置くつもりでしたが、国内外からインターンが集まるSANDWICHのレジデンスルームに合うかな、と。ベッドがいっぱいのときはここで寝る人もいますね。「ロビーチェア」1シーターは、ドローイングをする部屋に合いそう。いつもアトリエの中を動いているので、椅子を置いて、自分の場所をつくろうかな。——— 名和晃平[彫刻家]

常に動きながら

2009年、京都に様々な領域のクリエイターが集まり創作できるプラットフォーム「SANDWICH」をつくりました。サンドイッチ工場の跡地なので、名前もそのまま。5分ほど歩いたところに別館「ANNEX」もつくりました。

堤防沿いという環境も気に入っています。小さい頃、よく犬と一緒に堤防を散歩したんです。堤防って、考えごとをしながら歩くような感じがして、街とはちょっと違う。ここは制作に向かってフル回転する場ですが、気分転換もしっかりできます。N.Y、ロンドン、ベルリンにも住んだことがありますが、街中だとしんどくなっちゃうんですよ。周りが静かで制作しかすることがないような所が自分には合っていますね。スタジオでは常に動いているので、自分のデスクがありません。ドローイングをしたり、スタジオをまわって制作の進行具合を確かめたり、素材に触れながら1日が終わるんです。

東京都現代美術館で個展「シンセシス」を開催したのは2011年。このときは、各展示室の明るさや色、壁の色も綿密にコントロールしました。作品自体が発光しているものは、壁を白に近いライトグレーにして、より光っているように見せたり。「PixCell-Elk#2」を置いたホワイトキューブは、明るい白で満たして作品に光を集めました。

「Throne (g/p_ boy)」は、京都の仏具を手がける職人さんと一緒につくることで、伝統的な技術の面白さにも気づきました。今は、それを現代的なやり方でもできないかなと調べているところです。ビーズ、発泡ポリウレタン、シリコーンオイル、漆など、作品にいろいろな素材を取り入れてきましたが、素材の物性に着目して取り扱うことが好きですね。そして、テクスチャーとマテリアルをできるだけ限定する方が、形やイメージが伝わりやすい。感覚的にもシンプルに、強く伝わるような気がして。

スタジオ2階(上)と、レジデンスのスペース(下)。
国籍・年齢・専門分野も違うインターンが集うラウンジ。アートや建築のプロジェクトに関わって技術やノウハウを吸収したいという人もいれば、京都に興味がある人もやって来る。
建築を、彫刻的な感覚でできたら面白い

近年は、インスタレーションが多いですね。彫刻を単体で見せる場合もありますが、彫刻を体験したり、体験が作品になるものが増えています。彫刻、空間、建築、都市……、パースペクティブが広がってきて、空間や建築的な視点からも考えるようになりました。SANDWICHの建築チームと僕で、住宅の設計や空間の構成も手がけています。

2016年、広島県福山市にオープンした〈神勝寺 禅と庭のミュージアム〉内に新設されたアートパビリオン「洸庭(こうてい)」は、禅寺という場所そのものが特別。舟型の建物の全体をサワラ材で覆い、屋根には寺院などで見られるこけら葺きを用いています。内部では、ビジュアルデザインスタジオ「WOW」とコラボレーションした、暗闇の中で波に反射する光を体験することができます。

彫刻の制作は頭の中にあるものがドロッと出てくるような感じですが、建築の場合は、実際の空間や周辺環境とのつながりが深いので、そこに踏み込んでいく必要があります。コンセプトや形状は彫刻的な感覚で考えることができますが、建築にはコストや構造といった制限があるので、プロセスが全く違う。彫刻をつくるように建築物をかたちにできたら面白いなと思いますね。

「一か所で作業することはあまりありません。アイデアはどんなときでも思い浮かぶので、広げてはたたんで、また移動の繰り返し。頭の中でずっと作業が続いている感覚です」(名和)。
若いアーティストの刺激となる場に

パフォーマンス「VESSEL」は、ベルギーの振付家ダミアン・ジャレとのコラボレーションで生まれました。生と死、大地と生命の循環。Vessel(器)を基本的な概念として、物質的で原初的な世界観のなかでダンスと彫刻の融合に挑みました。60分間のパフォーマンスの冒頭から最後まで、ほぼ裸の状態の男女7名のダンサーたちが、頭部を隠した“ヘッドレス”という特徴的なポーズで踊り続けます。この「VESSEL」は、舞台表現という一つのジャンルを超えて、今後も様々なフィールドで発展させたいと思っています。

彫刻を考えるとき、ダンスはひとつの要素となっていることがあります。大学生の頃、田中泯さんが主宰されていた「アートキャンプ白州」に毎年ボランティアスタッフとして参加していました。世界中からダンサーや音楽家、アーティストが集まる場だったので、とても刺激的な時間を過ごしました。現在、京都造形芸術大学で教授を務めているのですが、SANDWICHもそんな場として開放できたらと思い、学生や国内外のインターンが出入りできるようにしています。遠方から来た長期滞在者のレジデンスも併設していて。といっても、ドミトリーの二段ベッドしかないんですが、泊まる人が後を絶たない(笑)。様々なバックグラウンドを持つクリエイターがプロジェクトに関わり、それがSANDWICHの風通しの良さに繋がっています。

空間から手がけたい

SANDWICHでは、ソフトとハードを同時に立ち上げることが多いですね。「SANDWICHなら、変わったアイデアや見たこともないものが出て来るんじゃないか?」という可能性に賭けて依頼してもらっている部分もあると思います。アートと建築、分かちがたいようなものが、偶然、ぽんとできる。そういう生み出し方って、アーティストだけでも、建築事務所だけでもできないと思うんです。

2017年末にオープンした「JAPAN HOUSE ロサンゼルス」のギャラリーとショップの設計も、SANDWICHの建築チームが担当しました。世界的な傾向として、今後、アーティストの感覚や感性が都市や空間に反映されることが増えていくと思います。だからこそ、建築のプロジェクトにも積極的に関わっていきたいと考えています。もともと建築が好きだということもありますし、今のようなスタンスが実は性に合っているのかもしれないです。

PixCell-Deer#24
2011
mixed media
2020×1820×1500 mm
collection of The Metropolitan Museum of Art, New York, USA
courtesy of SCAI THE BATHHOUSE
photo: Nobutada Omote | SANDWICH
Throne (g/p_ boy) [detail]
2017
mixed media
courtesy: SCAI THE BATHHOUSE and GINZA TSUTAYA BOOKS
photo: Nobutada OMOTE | SANDWICH
洸庭 / KOHTEI
2016
Shin shoji Zen Museum and Gardens, Hiroshima
© SANDWICH Inc.
photo: Nobutada OMOTE | SANDWICH
VESSEL kyoto
2016
ROHM Theatre Kyoto, South Hall, Kyoto
© Damien JALET|Kohei NAWA
photo: Yoshikazu INOUE
名和晃平Kohei Nawa

彫刻家

1975年大阪生まれ。2009年、アート・建築・デザインなど複数のジャンルのクリエイターが集うクリエイティブ・プラットフォーム「SANDWICH」を設立。「PixCell」という概念を軸に、様々な素材とテクノロジーを駆使し、彫刻の新たな可能性を拡げている。近年は建築や舞台のプロジェクトにも取り組み、空間とアートを同時に生み出している。
http://kohei-nawa.net
http://sandwich-cpca.net

Text:
Noriko Suzuki
Photo:
Shintaro Yamanaka