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COLUMN

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TREE

カリモク60とクリエイター

カリモク60に座ってお話を聞きました。

寄藤文平

以前いた銀座の事務所には「Kチェア」を置いていました。日中はもちろん、2シーターは、仕事が立て込んで家に帰れない時、ベッド代わりによく使っていました。ひじ掛けのところにクッションを置いて頭をのせると、いい感じになるんです。一度修理に出し、最後はひじ掛けが折れて機能しなくなるまで使い続けました。——— 寄藤文平[グラフィックデザイナー]

AIに駆逐されない、最強のデザイン

世の中がどんなふうに変化しても、きちんと世の中で働きを持ち、しかも長続きするデザインとはどういうものなのか?

これが僕の、この1、2年のテーマです。それまではプログラミングをしたり、体系を見つけ出して人に受け継いだりすることのほうが大事だと思っていたので、レイアウトをいかにシステマチックに組むかとか、情報整理をどういう手続きですると一番伝わるかということをずっと考えていました。

受け継げないものは廃れてしまうけど、どんなに優れた方法を見つけ出して人に受け継いでも、方法化できるということは、いずれ、コンピューターでもできるようになる、ということでもあります。つまり僕がやっていることは、最終的にAIのような、何かコンピューター的なもののプログラムとして消化される種類のものなんだと思ったんです。では、方法化ができない領域を受け継ぐにはどんなやり方があるのか。そう考えて取り組んでいるのが、道具を減らすこと。まず、レイアウトソフトを使わず、手描きでやることからはじめています。そしてそれを表現するための場として、『蔦屋通信』や『ふくしままっぷ』に使っている「八つ折り」があります。

「八つ折り」は、その名のとおり、A1の紙を8つに折っただけのA4の冊子です。製本も断裁もしていないごく単純な仕様ですが、1枚の中に情報を詰め込んで、しかも誰が見ても面白いと思える状態を作ろうとすると、かなりの表現力と編集力が必要になります。これを写真や組版といった従来のデザインの手法を使ってうまくやれるかというと、ちょっと力不足なんですよね。

情報をどのように造形に置き換えれば受け手に一番届くのか、いろいろ調べた結果わかったのが、規則性を使ったり、バランスを整えるよりも、手でパッと描いた方が、ずっと早い上に数倍伝わるということ。すごく細かい字も、手描きだと不思議と読めるんですよ。これがフォントだったらまず読まないし、そもそもこれだけの文字量は入らない。また、二百数十個の絵が入った膨大な情報を俯瞰できるのは、1枚の紙だからこそ。Webではこのインパクトは伝えられません。

手描きでつくるということは、原点回帰というよりはむしろ、一番先端のものに近づく方法だと僕は思っています。

絵を描く時は台の角度が調節できるこの机が定位置。細かく描くので、自家製のアーム付き拡大鏡は必需品。
0.3mmのシャープペンで細密に描かれた『蔦屋通信』のイラスト原画。
抽象的な内容を体系化して俯瞰できるのも1枚紙の利点だ。
Tsutaya Tsushin No.4
Publication: DAIKANYAMA TSUTAYA BOOKS
Editing: Sumiyo Motonaga
Design: Bunpei Yorifuji, Chikako Suzuki, Yuko Arakaki
illustration: Bunpei Yorifuji
Fukushima Map
Publication: Fukushima Prefecture Public Relations
Creative direction: Michihiko Yanai
Design: Bunpei Yorifuji, Takahiro Yoshida, Minori Kubota
illustration: Bunpei Yorifuji
MZMZ18
Client: NHK
Creative Producer: Ryo Kanda
Creative direction+Planner: Tomohiro Hieda
Art direction+Planner: Bunpei Yorifuji
Animation: LUC PIC INC.
Producer: Jun Inoue
緻密な「全体」が魅力ある「部分」を生む

テレビのアニメーション番組「MZMZ18(ムズムズエイティーン)」では、ディレクターとしてストーリーを考えるところから参画しました。2分間で物語として見られるものをつくるというのは、絵を描くのともデザインをするのともまったく違う。本当に何も知らないところからのスタートだったので、いろいろ研究しました。黒沢明監督の映画作品のイントロの映像を全部、絵コンテ割にして、それを「MZMZ18」に置き換えるんです。そうすると、こういう風にやるとこう動くのかということがわかる。特に黒沢監督は何秒で何フレームとか、びっくりするほど緻密に計算されているので、それを読み解くのが面白く、勉強にもなりました。

この仕事で僕が試みたかったのは、画面に映らないところまで全部世界をつくり上げ、その中から、ストーリーや各画面のカットといった「部分の世界」がどのように生まれるのか、ということ。

アニメーションはカットのつながりで表現されますが、そのカットを描く時に背景に何が映るかは考えておかないと描けません。背景に映る主人公の家がどんな形でどういう間取りなのか。さらに言えば、主人公が暮らしているのはどんな町なのか。そういう基礎になる世界をしっかり作り込むことと、そこから出てくる「部分の世界」の関係を知ることは、これからのデザインを考える上でも、とても大切なことでした。だからまずバックグラウンドになる世界をきちんと設計しておいて、そこから部分が生産される状態にしたかった。

たとえばブランディングにしても、今まで僕たちは、ロゴやアイコンをポンと先に作り、そこに実体をはめ込むというやり方、記憶を蓄積するための記号を作ることをブランディングだと言ってきました。でもその方法は、もう廃れていることは明らかで、自分たちのリアリティと全く合わなくなってきている。たとえば、原っぱに水を引いて湿地にしておけば、稲が育ち、雑草が生えて、虫もいっぱい飛んで来ますよね。僕が目指しているのはそういう感覚に近いかもしれません。これまでのように記号を先につくって、そこに実体をつなぎとめておくのではなく、まずしっかりとした全体の世界があって、その大きな湿地にある時は木が生えたり、ある時は花が咲いたりする。これからはそういうやり方が必要だと思うし、そういう在り方に僕は魅力を感じます。

「一枚工房」でデザインの在り方を示す

次の活動として僕が今考えているのは、「一枚工房」という会社を立ち上げること。要は、「1枚紙で何ができるか」という取り組みに特化した会社です。この3年間ほどでプロトタイプは大体つくり終わり、できることはほぼ理解できたと思うので、そろそろ事業にしようと。「八つ折り」は新聞や書籍とはまた別の新たなカテゴリーのメディアにもなり得ると思うので、その可能性を極めてみたい。「一枚工房」を支えるバックグラウンドをあらかじめ綿密に作っておけば、それ自体から出てくるものを楽しめるし、ある程度成果として認められれば、やりたいと言って受け継ぐ人も出てくるかもしれない。だから僕は「ここまでできますよ」ということを示す係りです。

今までみんなが「デザイン」だと思って、僕自身も勉強してきたこととは、そろそろ区切りをつける時期なのかなという気がしています。じゃあ次はどうするの?、というところを自分の活動で示していく。それが今後の僕の仕事だと思っています。

寄藤文平Bunpei Yorifuji

グラフィックデザイナー

1973年長野県生まれ。1998年ヨリフジデザイン事務所、2000年有限会社文平銀座設立。広告やプロジェクトのアートディレクションとブックデザインを中心に活動。作家として著作も行う。
www.bunpei.com

Text:
Yuki Sugise
Photo:
Shintaro Yamanaka