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DIALOGUE

カリモクへのおもい

長く売り続けることの喜び

 

長く売り続けることの喜び

カリモク60との付き合いは、2003年にシオガマアパートメントスタイルという店を出したときからです。

店のコンセプトは、塩釜口のアパートに住む男性のためのインテリアショップというもの。そんな男性が使いたいと思うソファはどんなものだろうと考えたとき、無理のない価格でクオリティが高く、なおかつウンチクがあるものがいいと思いました。そこにぴったりはまったのが「Kチェア」だったんです。まだ店ができていなかったので、どういう店でどう売るのかなど、カリモクさんと3、4回ほど面談をしました。OKが出たのはオープンぎりぎりの約2週間前。それから12年間、ずっとカリモク60を売り続けています。

販売を始めた頃、名古屋ではカリモク60の認知度はまだ低くて。ちょうどミッドセンチュリーブームで、イームズと混同して「アメリカ製ですよね」と言われることもありました。そこで「いや、愛知製ですよ。カリモクの『カリ』は刈谷の『刈』なんです」と言うと、驚きながらも地元製ってことに喜んでくれる人がたくさんいて。こういう価値の伝え方もあるんだと感じました。今でこそ産地表示は珍しくないですが、けっこう早い時期から、店頭の商品説明ポップに生産地を書くようにしていました。

長く売り続けていると、お客さんとのいろんな出会いがあります。学生時代にスプーンを買ってくれたお客さんが「当時は高くて椅子まで買えなかったんですが、就職したんで買いに来ました」と来てくれたり。「Kチェア」を買うために夏休みに必死でバイトしたという女の子が7、8年経って「結婚します」と今度はダイニングセットを買いに来てくれたこともあります。ずっと使ってくれて、それに合わせてまた新たに買い足しに来てくれる。それはすごくうれしいことだなと思います。クオリティの高いものを売り続けてきたからこそですよね。

2006年からは、ユーザーさんとカリモクさん側が顔を合わせる「カリモク60懇談会」を年に1、2回、工場見学を年1回、企画しています。若い子から見たら「Kチェア」はがんばって買うこだわりのもの。でもカリモクさんはいいものを作りすぎていて、「なんでこれがいいの」って少し麻痺しちゃっている。だからカリモク60を使うことに対して、お客さんがどれほど喜びを感じているのかを直接知ってもらいたかったんです。逆にお客さんにも、作り手がどれほどこだわって作っているかを知ってほしかったですし。両者の声を聞いているうちに、お互いに直接話ができる場があるといいなと思って始めました。

今ではカリモク60もだいぶ知れ渡って、お客さんの見方も少しずつ変わってきています。なので、魅力をわかってもらうにはどう伝えればいいか、常に考えています。最近は、カリモク60をカリモク製品の中のお手軽な商品ラインととらえている人もいます。その人たちに向けて「これでいい」ではなく「これがいい」と思ってもらうにはどうしたらいいか。売り手の側も発信の仕方や仕掛けを工夫していかなければいけないと思っています。

伊藤 隆一Ryuichi Ito

1969年大阪府生まれ、愛知県育ち。2003年、名古屋市内にシオガマアパートメントスタイル、2009年カリモク60を専門に扱う大須DECOを同市に開く。

Text:
Yuko Shibukawa
Illustration:
Yota Miyashiro
Photo:
Ryuichi Ito