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DIALOGUE

カリモクの仲間

家具だからこそのモケットを

 

家具だからこそのモケットを

カリモクさんから、カリモク60のモケットグリーンの生地を改良してほしいと依頼があったのは、2011年のことです。

当時の生地は、アクリル製の非常にやわらかくて繊細なもの。それだけに輸送中に毛折れや毛クセが生じることがあり、色や風合いはそのままにできるだけ強度を高めるにはどうすればいいかというところから開発がスタートしました。

モケットは、電車やバスの車両でよく使われていますが、そこで優先されるのは、耐久性や強度。一方、家具ではクッション性やさわり心地など、同じ椅子でも求められるものが変わります。個人のお客様が愛着を持って使えるように、品質を担保しなければいけない。完成まで3年もかかりました。カリモクさんへ2か月に1度、サンプルを4パターンぐらい持っていき、課題をもらって帰ってくる。じつは「最終版」と書いたサンプルがいくつかあるんです。「これで完成だろう」と思っても、まだ課題が出てくる。とにかく長かったという印象です。

開発でまず取り組んだのは、素材選びです。車両シートでは、強度のあるポリエステルが主流ですが、それだとやわらかい質感や独特の光沢は出ません。そこでポリエステルと艶のあるアクリルをバランスよく混ぜることにしました。それから織り方。現代の高速織機では、糸になるべく強いテンションをかけ、いかに効率よくたくさん織れるかが勝負。でもそれだと、ふんわりとした手ざわりにはなりません。そこで上司の村井錦夫から、古くから付き合いのある岡田織物さんを紹介してもらいました。岡田織物は織機3台を備えた小さな工場で、使っているのは半世紀ほど前の古い織機。この古い織機だと、糸にあまり負荷がかからず、ふっくらと織りあがるのです。

そして最大の難関は色でした。同じ色で染めた糸でも、光源の違いによって色の見え方は非常に変化します。とくに家具は、太陽光や蛍光灯などいろんな光線の中で使われるもの。さらにポリエステルとアクリルは同じように染まらないので、別々に染めてから撚り合わせて一本の糸にしなければなりません。そこでアクリルを少し赤くしてみたり、ポリエステルを少し青くしてみたり。組み合わせは無限にあるので、ベストなバランスを探るのに試作を何度も繰り返しました。

完成までが長かったので、手が離れたときはうれしい反面、ちょっと寂しくもありました。私は関織物に8年、その前もモケットの織物会社に5年いて、この生地とは13年の付き合いになります。ふだんは車両がメインなので、村井から最初「こういうのは岡田織物のようなところで織らなあかん」と言われてもよくわからなかったんです。でも実際にやってみて、こんなに違うのかと改めて勉強になりました。低速織機で織るモケットは、高速でたくさん織ってなんぼという現代の風潮にとらわれないもの。素材や織り方によって深みや表情がまったく変わるという、この生地ならではのおもしろさを再認識した仕事でした。

長井 昌也Masaya Nagai

モケットメーカー勤務を経て2009年に関織物に入社、新製品の開発に携わる。カリモク60のモケットグリーンの改良を担当。

Text:
Yuko Shibukawa
Illustration:
Yota Miyashiro
Photo:
Shintaro Yamanaka