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DIALOGUE

カリモクをつくる

一本の線から生まれる形

 

一本の線から生まれる形

カリモクとの出会いは、昔、自宅にあったダイニングセットでした。

母が結婚したときに買ったもので「全然壊れないから、買い替えなくていいわ」とよく話していました。小さい頃、寝っ転がってテレビを見ていると、ちょうど椅子の下のほうにあるロゴが目に入って。いつも何気なく見ていたそのメーカーが、地元の岐阜にも工場があると知って入社を希望したんです。

新商品をデザインするときは、まず過去のカタログを参考にします。カリモク60+だと、1960年代のカタログをもとに原型となるモデルを決め、それを今の間取りやインテリアに合うようにサイズや機能をアレンジしていきます。最初は10分の1サイズの意匠図を描いて、次に原寸図を描きます。真っ白い大きな紙に、定規を使わず手でしゅーっと線を描いていくんです。それを少し離れたところで確認しながら、さらにトレーシングペーパーを重ねて修正していきます。そうして最後に残った線でサイズを測ります。「いい線だな」と思うところを先に手描きで押さえ、CAD(設計ソフト)は清書のために使うんです。

デッサン力が問われる仕事ですが、入社当時は描きたい気持ちはあるけど、人に意匠を伝えられるような絵を描けませんでした。上司から「毎日1枚でいいから、家具の写真を写し続けなさい」と言われました。それで椅子などの写真や絵の上に紙を置いてトレースする作業を4、5年続けました。最初はこの作業で描けるようになるのか半信半疑でしたが、だんだんと「ここに線を1本入れないと絵にならないんだな」「この線がズレている」と、線の使い分けやパースが見えてくるようになったんです。今にして思えば、上司が伝えたかったことは、「毎日続ける」意志さえあれば不得意なこともカバーできる、「継続は力なり」ということを教えてくれていたんだなと感謝しています。

最初にカリモク60+の「ダイニングチェア」の話をいただいたときは、ちょうど20代後半。カリモク60のお客様の層と、自分の年代が合っているブランドに関わることができてうれしかったです。

こだわったのは、座面を両脇から挟めるように、前脚から側面、肘、後脚まで、左右のパーツがすべてつながった形状にすること。そうすると、両側の脚が平面上に置けて、加工がしやすくなるからです。会社に所属してデザインするということは、作る現場、売る現場のことも常に考えなければいけないということ。単に見た目の格好よさだけでなく、構造や製造ラインの都合も考えないといけない。見た目の美しさと使いやすさ、製品の耐久性という3要素をバランスよく考えてデザインし、線を引くようにしています。

変化する時代に合わせて、デザインは無限にあると感じています。カリモク60+の「アームレスダイニングチェアⅡ」のように、おおらかで、やわらかい感じが自然に出ていると、達成感があります。常に「もっと素敵な製品を生み出したい」と思うので、モノ作りに終わりはないです。

高峯 千佳Chika Takamine

2000年に岐阜カリモク入社以来、企画課に所属、さまざまな新商品のデザインに携わる。カリモク60+では、「カフェテーブル」なども担当。

Text:
Yuko Shibukawa
Illustration:
Yota Miyashiro
Photo:
Shintaro Yamanaka