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COLUMN

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DIALOGUE

カリモクのおもいで

Kチェア人気の不思議

 

Kチェア人気の不思議

私は1967(昭和42)年の暮れに、23歳でカリモクに途中入社しました。

その前はデザイン事務所でプラスチックの家庭用品を設計していたんですが、これは「男一生の仕事じゃないな」と思い、どこかメーカーに職はないかと探していました。そんなときに初代の加藤正平社長とうちの親父が顔を合わせる機会がありまして。デザインをやる人間を探していると聞き、「うちにゴロゴロしているのがいるから、いっぺん行かせます」となりました。

当時、私はカリモクの名前を知りませんでした。そこで親父に「何を作っているの?」と尋ねたら、「前はミシンテーブルやピアノの鍵盤の下請けの仕事をやっとったけど、最近、国内市場用に自社で家具を作り始めた」と。その開発のためにデザイナーを雇ったけれど、最近辞めてしまったということでした。そうして面接を無事通過して入ってみたら、すぐに徹夜の連続。ここはいったいどういう会社なんだ、と思いましたね。

入社した当時から、いま「Kチェア」と呼ばれている1人掛けの椅子はありました。私が入ってから、2人掛け、「ロビーチェア」といろいろ作りました。リビングテーブルやサイドボードの図面も私が引いたんです。

そういえばこの前、こんなことがありました。証券会社の営業担当の女性が、旦那と一緒に「転勤してきました」と挨拶しに来たんです。それで家のなかに通して話をしていたら、彼女が「立派な家具を使ってみえますね」と言ってこう続けました。

「私も名古屋に転勤になって、家が決まってから、毎週日曜日に家具屋をまわったんです。3 週目でやっと気に入った椅子を見つけました」そう言いながら、スマホを出して「これです」と見せてくれた写真がなんと「Kチェア」でした。

驚いて、「あれ、これ私が開発を担当していた家具ですよ」と言うと、彼女も「ええっ!」とびっくりして。「Kチェア」は家具を作り始めた頃に作ったものですから、最近の機能を追求した椅子と比べるとクッションなどのつくりはシンプルです。ですから自分が開発に関わったとはいえ、思わず、「何でこれがいいんですかね?」と尋ねてしまいました。すると彼女が、「この椅子は、いま若い人にすごく人気なんですよ。友だちを家に呼んだときも『いい椅子を買えたね、どこで買ったの?』と褒められました」と言いました。

それを聞いて正直、悪い気はしなかったですね。なんせカリモクが家具を作り始めた最初に作った椅子ですから。言ってみれば、現在の製品の基礎になったもの。みんなでああでもない、こうでもないと試行錯誤しながら作ったものがいまも「かっこいい」と言われて使われ続けている。メーカーで長年もの作りをしてきた身としては、うれしいものです。でもやっぱり、何でこれがいいのかな。僕だけじゃなく当時開発に携わっていた人間はみんな不思議がっています。

林 隆嗣Takatsugu Hayashi

カリモクグループ 豊明木工OB

カリモクグループのひとつ、豊明木工OB。1967 年、刈谷木材工業(現カリモク家具)入社、「Kチェア」などの図面作成、カタログデザインを担当。

Text:
Yuko Shibukawa
Illustration:
Yota Miyashiro
Photo:
Shintaro Yamanaka