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COLUMN

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THOUGHT

カリモク60について話そう

経営者とカリモク60について語りました。

ナガオカケンメイカリモク60
クリエイティブディレクター
加藤正俊カリモク60の製造、卸をする
「カリモク家具」取締役社長

一脚の椅子をめぐる出会いから15年。廃番寸前だった60年代の家具が息を吹き返し、一大ブランドを築きあげるまで。カリモク家具の加藤正俊と、D&DEPARTMENTのナガオカケンメイというほぼ同年代の2人による、いまだからこそ語れるカリモク60のこれまでとこれから。

カリモク60が立ち上がるころのカリモク工場の様子。写真は工場見学に来たD&DEPARTMENTスタッフが撮影した。
ネジが1本なかった、ユーズドのKチェア
ナガオカケンメイ
最初にお会いしたのは、たしか2000年頃でしたよね。
加藤正俊
はい、東浦カリモクの工場へ見学に来たときが最初だと思います。その頃にはD&DEPARTMENT(以下、D&D)の東京店もあって、「Kチェア」を一番売ってくださっていたんですよね。当時はまだWS1150番という品番でカタログにも掲載され、全国すべての代理店が取り扱える商品でしたが、ときどき不動産屋さんや自衛隊などから5 セットとか注文が入るぐらいで。そんななか、ナガオカさんだけがD&Dの名前を入れたオリジナルのプレートをつけて真剣に売ってくださっていて。
ナガオカ
そういえば、僕、勝手にプレートをつけて販売していましたね。しかもその頃からD&Dでは、「カリモク60」と呼んでいました。お客様にも「カリモクっていう会社の60年代にできた原点の商品なんです」と説明していたから、売れたんだと思います。
加藤
そうやって独自にプレートをつけて、なおかつちゃんと売り上げているのがおもしろいなあと。しかもプレートの表記がカタカナでしたね。もともとカリモクのロゴはカタカナだったんですが、1989年にローマ字の商品ブランドロゴに変えたんです。80年代や90年代は、ロゴといえばローマ字という時代でしたから。そこをあえてカタカナで提案するところが僕にはまたおもしろいと思って。で、その日に家に帰って「変わった人がいる」って話をしたのをうちのカミさんがよく覚えていて、いまでも「あなた、ナガオカさんのことをそう言ってたわよね」なんて言われます(笑)。それから半年か1年後くらいにカリモク60のご提案をいただきましたよね。
ナガオカ
そうでしたね。愛知県知多郡の阿久比(あぐい)出身の僕にとって、カリモクはいわばふるさとの大企業なんですね。だから、あのときは普段着で遊びに行くぐらいの距離感ですっと提案しに行けたんだと思います。
加藤
カリモクのことは昔からご存じだったんですよね。
ナガオカ
もちろんです。でも、どんな家具を作っているのかまではよく知らなかったんですが、あとから振り返ると、うちの親は家具を全部カリモクさんで買っていたんです。覚えているのは、小学5、6年生ぐらいのときに家のL字型ソファが突然、すごくかわいいモケット生地のものに変わった瞬間があって。あれも、カリモク製だったんですよ。
加藤
「Kチェア」を最初に見たときはどう思われましたか。
ナガオカ
D&D東京店の開店準備しているときに、リサイクルショップで見つけて。カリモク製品とも知らずに、すごく形が完成されていると思いました。子どもに木肘の椅子を描いてみろと言ったら、きっとこんなふうに描くんだろうな、というような削いだ形。でも買ったら、ネジが1本なかったんです。調べたら「カリモクって会社です」と言われました。大人になって自分でリサイクル屋さんに行って素敵だなと思ったものが、自分の知っている愛知県のカリモク製だということにけっこう感動しましたね。
カリモク60をきっかけに、D&DEPARTMENTでは、60年代に生まれた原点商品に注目した「60VISION」プロジェクトが立ち上がった。
時代がKチェアを待っていた
ナガオカ
カリモクさんに、カリモク60の提案をしてからは、スパン、スパンと気持ちいいぐらい即決されてブランドの立ち上げが進んでいきましたよね。
加藤
ちょうどその頃、これからどうやって若い人に自分たちの家具を買ってもらおうかと悩んでいた時期だったんです。結婚を機に家具を買いそろえるブライダルマーケットがどんどん縮小して、従来型の家具専門店さんが消えていくなか、若い人にウケそうなデザインのものを自分たちなりに開発してみたり、うまくアプローチできる場所はないかとマルイさんが手がけていた「InThe Room」というインテリアショップに、デザイナーと組んで製品を置いてみたり。でも、なかなかうまくマッチしなかったんです。あがいているなかで、ナガオカさんのD&Dは確実に販売実績を上げている。焦点を絞ってうまくアプローチすれば、これだけ届くんだってすごく勉強になりました。
ナガオカ
「In The Room」、ありましたね。若い人たちが一人暮らしの自分の部屋に合ったおしゃれな家具を選びたいというシーンが生まれてきた頃ですよね。しかもあのあとカフェブームも起きて、一気にみんながカフェの椅子に関心を持ち始めて。ユーズドブームもあいまって、みんなが家にレトロな椅子を置いて、カフェみたいな空間を作るのが流行ったところに、「K チェア」はぴったりはまったんです。それこそ2~3年掛け違えていたら、遅かったと思う。
カリモク60立ち上げ当時のカリモクのスタッフ。左から、小島敏彦、加藤正俊、山田郁二。
加藤
自分たちには、ナガオカさんのように昔からの商品を再編集するという発想はなかったですね。
ナガオカ
僕は「Kチェア」を見たときに、これはカリモクさんの原点だから絶対に大切にする必要があると思ったんです。でも、カリモクの方から、当時はカリモクのラベルを剥がして販売しなきゃいけない状況があるというのを聞きました。大型の家具量販店さんだと、ブランドがあると安く売れないから、カリモクのブランドがかえって邪魔になるというんですね。そういう状況なら、いちグラフィックのデザイナーの考えでも聞いてくれるのかなって提案を思い立ちました。
加藤
タイミングもよかったんです。D&Dさんの売上がずいぶん伸びてきて、どこのお店でも扱える商品のままだと、誰かが「うちはもっと安く売ります」と言い出していろいろと問題が起きそうだなと思っていたところだったので。
ナガオカ
ちょっとわかりにくいところなんですが、新しく「カリモク60」ブランドを立ち上げるにあたって、カリモクブランドから、カリモク60ブランドに移行し、カリモクブランドでの販売を終了させました。カリモク60のお客様像に合った売り先を探しに、2002年の東京ビッグサイトの国際家具見本市で大々的にお披露目をしたんです。そうしたら当然、量販店さんたちは「どういうことなんだ」と血相を変えてやって来るわけです。そのときに加藤副社長がブースに立って説明をしている姿が、ほんとカッコよくて。正直、あのときはどんな気持ちでした?
加藤
WS1150番の椅子を、カリモク60ブランドにするって決めた頃から、わりと社内的に腹は括(くく)れていましたから、あまり気にしませんでした。しかも会場にいる若いアルバイトの子たちが、この椅子をカッコいいと言ってくれて、可能性も感じていましたし。年配の業者の方からは「昔はよくこれを組み立てたな」なんて懐かしがる声が聞こえてきたり。自分たちの原点を守りながら、うまく新しいブランドとしてのスタートが切れてよかったと思いました。
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