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COLUMN

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PEOPLE

人のはなし

「木と人の家具カリモク」の人についてお話しします。

クオリティを守り抜く人たち

一本一本、性質が異なる木という素材を相手に一定のクオリティを維持しながら、数を作り続ける。そのために現場ではどのような取り組みが日々、行われているのか。カリモク60ブランドの「Kチェア」をはじめ、木肘椅子を中心に生産している東浦カリモクを訪れた。

ちょっとしたことも
おろそかにできない

カリモク60の販売店には毎月、カリモクからのレポートが届く。月次の報告や製作現場の様子を伝える記事など、A4用紙の表裏3~4枚にわたってカリモク60にまつわる情報が細かく記されている。また、商品をどこか改良した場合には必ずその旨も報告されている。

改良といってもたいていの場合、それほど目立った変更ではない。販売店も気づいていないようなこと、たとえば梱包の仕様を少し変えるといったようなほんのちょっとしたことだ。だが、こうした「ちょっとしたこと」をおろそかにしないところに、カリモクのもの作りの姿勢が垣間見られる。「品質管理に卒業なんてことはありません」と語るのは、話を伺った東浦カリモク常務取締役の木下(きした)達志だ。

木下の仕事は毎朝、各営業所から上がってくるデータを見ることから始まる。お店やお客から寄せられた提案やクレームは、全国の営業所を通じて社内のネットワークにアップされる。それを見て、改善が必要と思われるものについては、対応を早急に検討するのだ。

たとえば、先に挙げた梱包仕様でのこと。起毛のモケット生地を使ったソファでは、輸送途中に梱包材がふれ、たまに毛が寝てしまうことがあった。そうした指摘を受け、工場では改善に乗り出した。結果、生地が梱包材に直接ふれないよう、当て材を入れるという対策が1週間のうちに取られたのだった。

製造業では、品質管理は大命題とされる。しかもカリモクがある愛知県は、トヨタ自動車を筆頭に昔から製造業が栄えてきた地域だ。それだけに品質管理への意識が高いのは当たり前のことかもしれない。だが、カリモクがことさら品質管理を重要視する理由──。それは、工場を実際に見学してみるとよくわかる。

素材の違いを生かすために
最後は人の手で仕上げる

カリモク60ブランドの「Kチェア」をはじめ、ダイニングチェアや木肘のソファなどを製造している東浦カリモク。工場に入ってまず驚くのは、その整然とした雰囲気だ。木製品を扱っているとは思えないほど隅々まで整理整頓された工場内には、ラインがコの字型に配置され、従業員は流れるような無駄のない手つきで黙々と作業をしている。

ここでの作業は、木工の工程と椅子張りの工程に大きく分かれる。木工工程では、木地パーツを削り出す木工加工、表面を滑らかにする木地調整、接着剤を使ってパーツを合わせる組付、塗装が順に行われる。木工工程を終えたら、椅子張り工程に進む。バネを取りつけ、木枠にウレタンフォームを固定し、表地の布をタッカーで張り込めば完成だ。

工場を見学して気づくのは、手作業の多さだ。一つひとつの工程は分業化され、機械化もある程度は進んでいる。だが、細かな作業になると必ず人の手が介在している。

たとえば木工加工では、機械で削り出したあと、機械ではできない面取りや研磨作業を職人が手で行う。木地調整でも、ロボットアームが全体の木地調整をしたあと、人の手によって丁寧に仕上げていく。なぜなら、木の硬さや密度は一つひとつ異なり、機械だけだと仕上がりが均一にならないからだ。

生地メーカーから届いた布地を、検査台の上で一反(約50m)分ずつ巻き取りながら、目で確認。

なかでも塗装の工程は、木下いわく「もっとも感性が必要とされる作業」だ。「木工加工が1ミリ単位まで正確に削り出していく引き算の作業だとすると、塗装は塗料を塗り重ねて目指す色合いにする足し算の作業なんです」

塗装の作業は2人1組で行う。1人が全体にまんべんなく色をつけ、もう1人のベテランが最終的な仕上げをする。木の色合いや肌理(きめ)はそれぞれ異なるため、均一に塗っているとムラができてしまう。地色の薄いところは2回、濃いところは1回といったように塗る回数を変えたり、スプレーガンの引き方で塗料の出る量を調節したりしながら、全体を同じ色合いに仕上げていく。

加えて塗装のむずかしいところは「宙に浮かせて塗らなければいけないところ」だと木下は言う。作業するのは、すでに組付を終えた立体物だ。水平な板に塗るのとはわけが違う。「塗料を吹きすぎると、塗料が重なりあった部分に溜まってしまったり、垂れて跡が残ってしまったりします。かといって薄く塗りすぎては塗膜がはがれやすくなってしまいます。ある程度の厚みが必要なので、塗料が垂れないギリギリのところで吹くという、かなりの熟練の技が求められます」

きれいに塗るには、塗料をどのぐらい薄めるかも適切に見極めないといけない。希釈に使うのは、揮発して塗料を固化させるシンナーだ。シンナーは、温度がほんのちょっと上がっただけで揮発のスピードが速まる。そこで気温が高い日なら多めに薄め、低いなら少なめに薄める。それを職人の勘でとらえて、そのつど加減をするのだ。

「鉄などの均一な素材と違って、木材は一つひとつの素材の違いが目で見てわかります。だから、最終仕上げまで人間が行う意味があります」。どこまでもついてまわる木材という素材の特異さ。それが「我々の仕事のむずかしさであり、またおもしろさでもあるんです」と、木下は語った。

カリモク製品の塗装は計7回。塗装と塗装の間、木の繊維が立ったところを、手で触れながら見つけて磨く「中研ぎ」が欠かせない。
5つの部品が手作業で組み付けられた「Kチェア」の木肘。この後、塗装の工程に入る。
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