資材から調達することの一番の強み。それは「1枚の板が、最終的に何の製品になるのかがわかって加工しているところ」だと執行は言う。木工加工には「木取り」と呼ばれる工程がある。木取りとは、丸太や大型の木材から、用途に応じて必要な部分を必要な寸法に切り出すこと。ポイントは、単純に長さや幅を揃える作業ではないということだ。
「指定されたサイズにカットするだけなら、中国の工場に持って行ってもできます。でもそれをしないのは、『この木材は何になるか』という意識を持って、切ったり割ったりできるから。それが製品の最終的な仕上がりに影響するんです」
「ここで割ったら一番きれいに木目が出るだろう」と思うところで木を割り、「ここでカットしたら、中心に木目が来るだろう」というところでカットする。木がもっとも美しく映えるよう、考えながらパーツに落とし込んでいくのだ。だが、考慮するのは、見た目の美しさだけではない。
「木工業界ではよく『歩留まり』という言葉を使います。歩留まりとは、一枚の板に対して製品として使った部分の割合を指します。たとえば歩留まり50%なら、板材の半分しか製品になっていないということ。つまり、歩留まりが悪いほどコストが跳ね上がり、販売価格にも影響を及ぼします。ですから、いかに歩留まりをよくするかを考えながら木取ることも重要なのです」
多少欠点があっても、見えない座面の内側に使うのには問題がない。「本当は捨てるところがないのが理想です」と言うように、できるだけ無駄をなくすことも大切だ。
ただ、相手は一つとして同じものがない木材である。そのつど的確な判断を下すには、経験がものを言う。単純にマニュアル化はできない作業だ。そこでカリモクでは、ある程度の基準を示したうえで、ベテランが若手にマンツーマンでついて手ほどきをする。若手が「割ったら欠点が出てきましたが、どうしましょう?」と聞けば、ベテランが「ここは表から見えない箇所にくるから使えるよ」と答える。そうして日々の仕事のなかでやりとりを重ねながら、技術を体得していくのだ。
だから、独り立ちできるようになるのは、長い時間がかかる。だが、ひとたび熟練の域に達すると、表面を見ただけではわからない欠点も見抜けるようになるという。
「板の段階ではほんの小さな節だったのが、3ミリ削っただけでかなり大きくなることがあります。普通なら削ってみて『しまった!』となるところですが、プロは節の形を見ただけで、削ると大きくなるかどうかが見極められるようになるんです」。そう執行が話すと、隣で話を聞いていたカリモク60ブランドマネージャーの小島敏彦も大きく頷きながら続けた。
「たとえば『カリモク60+カリモク』のKチェアに使われているブラックチェリーは、真っ赤な部分と白っぽい部分があって、すごくバラつきがある材なんです。で、僕ら営業は『アームのトップに白っぽい部分がこないようにしてください』とお願いしているんです。そうすると、『そんなむずかしいことを言うなよ』なんて言いながら、資材のみなはやってくれる。木に関するプロフェッショナルがいるから、僕らも安心しておすすめできるんです」