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COLUMN

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TREE

木のはなし
自然を味わいたいなら
心構えを

苦労してでもなんとか質と量が確保できていた時代から、入手すら困難な時代へ。資源が減少したここ20年では、広葉樹の伐採に対する考え自体が変化した。以前は、商用のために利用価値の高い木を切っていたのが、現在では森林整備の一環として木を切る方向に転換したのである。要は日陰をつくってしまうものや、枯れていたり腐っていたりするものなど、森を育てるのに支障がある木だけが伐採されるようになり、その結果によってのみ、丸太が市場に出回るようになったのだ。

戦後、針葉樹の植林が奨励され、いまでは人工林の大部分が針葉樹林になっていますが、広葉樹を植林して増やすことはできないのでしょうか。

三津橋
はい、私どもも挑戦してみたんですが、広葉樹はなかなか活着しなくて、技術的に難しいんです。地面をかきおこす「地がき」をして天然更新を促しても、枯れてしまうか、鹿に食べられてしまうかが現状で。もっとも「地がき」をしても、最初に生えるのは、シラカバの木。シラカバの種子は軽いから、遠くからでも飛んでくるんです。シラカバは30年も経てば木の中から腐ってきます。それが倒れて、今度は違う樹種が生えてくる。ナラが育つような環境ができるまでにも時間がかかって、さらにナラが大きく育つまでには100年以上かかりますから。樹齢50年なんてまだ細くて、集成材や床板材にしかなりません。

育てることも難しいとなると、以前のように、良質な木材だけを選んで家具を作るということが、実際には不可能になっているということでしょうか。

三津橋
そうですね、量的なものは手当てできても、絵に描いたようにきれいに目が通ったものの入手はなかなか難しいのが現状です。そうなると、メーカーさんのほうでいかに道産材のナラをうまく使いこなしていただくかということになると思います。その点、カリモクさんは、知多カリモクの加藤洋社長自らこちらにも足を運んでくださって、欠点があるものをどう商品化するか、いろんなことにチャレンジしていただいています。よその家具メーカーさんはそこまでしませんから。
木を切り倒すときは、できるだけ長く木材がとれるよう、根元を掘る「根堀り」をする。枝の付き方や倒れる向きを慎重に計算して、チェンソーの刃を入れる。
丸太の見極めのポイントは、芯が中央にきているか、赤太が多くて白太が少ないか、節から腐食が出ていないか。
広葉樹 / 針葉樹
平たく幅の広い葉をつける広葉樹は、横に枝葉を張りながら成長するのが特徴。重く堅いものが多く、家具用材として重宝される。一方、細い針状の葉をつける針葉樹は、高くまっすぐ上に伸びるため、建築の構造材に向く。日本における針葉樹林と広葉樹林の面積はほぼ同じだが、人工林は針葉樹林が約9割、天然林は広葉樹林が約8割を占める。
赤太あかた / 白太しらた
丸太の断面をよくみると、中心に近いところは赤みを帯びて色が濃く、外側は白っぽく色が薄くなっている。この赤い部分を「赤太」、白い部分を「白太」と呼ぶ。赤太は心材、白太は辺材ともいう。赤太のほうが白太より腐りにくく、害虫にも強く、堅いという特長がある。

具体的にはどんなことにチャレンジしているのでしょうか?

三津橋
一番は、使いづらい白太の部分が厚い木材の利用ですね。白太の部分は昔はまったく、今でもほとんどみなさん使いません。でも、カリモクさんではうまくデザイン的に生かしてテーブルの天板に使っていただいたりしています。あと、木材の幅の問題もあります。同じ板材でも幅の狭いものと広いものが出ますよね。昔ですと「2枚はぎ」「4枚はぎ」といって同じ幅のものを接着して一枚の天板にしていたのを、狭いものと広いものをランダムに組み合わせて、1枚にしたり。同じ資源の量から家具に使っていただける比率は増えていると思います。木の個性を生かして、上手に使いこなしていただけているので、非常に助かっています。

お伺いしていると、資源が豊富だった頃の「良質な木」の定義を考え直さないといけない時期に来ているんだなと感じます。

三津橋
そうだと思います。昔からよくいわれている、太くて節などの欠点がひとつもない木が本当にいいものなのか。絵に描いたような完璧な木材がほしいなら、もはやプリントでもいいのではないかと思ってしまいます。自然なものを味わいたいなら、自然なものを受け入れる心構えが求められるのだと思います。

取材を通じて、実感したのは森林資源を取り巻く実状の厳しさだった。だが、不思議と悲観的な気持ちにはならなかった。それは、資源が枯渇したことでかえって、もの作りを自然なサイクルに戻すことができたのではないかと思ったからだ。まっすぐで太く節もなく、扱いやすくて、目がきれいに通ったもの。そんな木を求めるのは結局、人間の都合でしかない。長い時間のなかで育まれた木そのものの姿に人が寄り添い、いかに長く、愛着を込めて使えるものを作るか知恵を絞る。そうすれば、その間にまた新たな木は育つ。いかに自然と共存しながら、ものを作るか。高度消費社会の先にある、もの作りの未来像を垣間見た思いがした。

  • 井口明親Akichika Iguchi刈谷木材工業OB

    1961年、刈谷木工業に入社。大学で学んだ林学の専門知識を生かし、モットーのKKDD(経験と勘と度胸だけではだめ)で乾燥や接着技術の改良に取り組み、トヨタ生産方式の思想を取り込んだおのおのの工程で品質を作り込んでいく改革を行った。

  • 三津橋央Hisashi Mitsuhashi三津橋産業 代表取締役

    1980年、祖父の代から続く三津橋産業に入社。「ナラの剥いた皮はボイラーの燃料に、おがくずは牛舎の敷きワラ代わりになったり、キノコの菌床になるので、捨てるところがないんですよ」と語る姿からは、この仕事に対する誇りがうかがえた。

Text:
Yuko Shibukawa
Photo:
Nobuhiro Nakano, Shintaro Yamanaka